憧れの可憐な先輩――だけどダメ人間
幼馴染の女の子――何故かダメ人間
ツンデレ後輩――やはり、ダメ人間
そして――
主人公――当然、ダメ人間
みんなダメ人間だからこそ彼らは出会えたのだ
と、ダメ人間というキーワードがやたら出てくる本作ですが、駄目なのは登場人物よりむしろシステムの方だったというのが正直な所。
とにかく古臭く、攻略を進めるのが面倒な作品でした。序盤、個別ルートに入るまではひたすら、
行く場所(ヒロイン)を選択→話す話題を選択→会話の中での返事を選択
を繰り返さないといけません。二十回ほど。何の罰ゲームだと。会話自体それ程面白くもないし。
下級生シリーズとかと似たようなシステムですが、攻略ヒロインが三人(+1)しか居ないこの作品でこんな事を擦る必要がどこにあるのかと。同時攻略も無理っぽいし。
単にゲームボリューム水増ししたかっただけなんじゃないかと勘ぐってしまう次第。
で、頑張って個別ルートに入っても面白いとは言い難い、というか「ストーリー」というものがあるのか無いのかすら微妙な内容。
一応三人とも山場らしきものはありますが、どれもこれも唐突でプロットも何もなくその場の思いつきで書いたんじゃないかという印象。いきなり父親死んだと思ったらSEXし始めたり、コミケに行ったと思ったら直後に売れ残った同人誌抱えて雨の中に佇んでいたり。もうちょっと描写すべきところがあるだろうが。
テキスト自体はそれ程酷くなく、ヒロインも全員キャラが立っていて良かったと思うのですが、それを全く生かしきれていないシナリオ(らしきもの)。折角、競馬実況を聞くヒロインとか珍しい逸材だったのに。
またルートに入ると他のヒロインが完全に空気になるのもマイナス。殆どモブキャラ並の出現頻度。というかサブキャラの二人のほうが良く画面に出ていたような……。
主人公、ヒロインをダメ人間から脱却させる為に盛んに人との繋がりについてヒロインに説教するのに実際にはヒロイン以外との人の繋がりが激減していくという矛盾。一体何の皮肉だと。
隠しルートのツクヨミルートだけはそれでもまだまともなストーリーらしきものがあったのですが、これも最後が唐突な印象であまりよろしい出来ではありません。
ラストで『人間失格』を逃げ場にしてはいけないと唐突にコミュを閉鎖するツクヨミ。
しかし、そもそも、『人間失格』というコミュが重要なファクターとなっている筈なのにゲーム内での扱いがあまりにも小さい為、『人間失格』を閉鎖するというツクヨミルートのラストに感情移入し難いというのがあります。
序盤こそ『人間失格』はそれなりに存在感を持っているが、個別ルートに入ると殆ど存在が空気に。好意的に解釈すれば、主人公がヒロインと付き合う事になり徐々に『人間失格』に依存しなくても大丈夫なようになっていった。と、受け取ることも出来ますが……。実際、殆ど放置だったのは事実なわけで。
そんな、忘れ去られたコミュの閉鎖をラストで大々的にやられても違和感しか残らなかったというのが正直な所。
ツクヨミルートはプチ修羅場とか、主人公監禁とか面白くなりそうな要素があったのに、どれもあっさり片付けられていて残念至極。この辺もっとしっかりと書いていてくれれば随分と面白くなりそうだったのですが。特にいじめの被害者と加害者が鉢合わせ。しかも加害者は被害者と付き合っている男の事が好き、とかこれ以上無いくらいわくわくしたのにたったワンシーンで終わりとかふざけているのかと。いじめの背景にもその辺の事情があったりとか想像していたのに完全スルーだし。本当にふざけてるなと。
絵に関しては合格点。というより、ここを評価出来なかったらこの作品で評価出来るところなど何もなくなってしまいます。
ダーク系のHシーンがそれぞれのヒロインに用意されていますが、こっちをメインにして抜きゲーでも作っといた方がみんな幸せになれたと思います。
『ダメ人間』を全面に押し出していた作品だったのに、ヒロインが全然ダメ人間で無かった印象。元ネタの太宰治の足元にも及ばないです。というか、この程度のダメ人間むしろエロゲでは標準レベル。エンディングだと全員ダメ人間から脱却する、みたいな感じだし。
というかですね、『人間失格』を名乗るならせめて太宰位のダメ人間を出せと。結婚してひもになっておきながらその結婚相手が処女じゃなかったと知って発狂、俺を捕まえてくれと警察に飛び込む位のダメ人間を。
ツクヨミルートで多少は評価あがりましたが、それでも全体的にシナリオがチープでボリュームが少なく、同人作品を値段だけ上げて商業で出しました。という印象の作品でした。新品価格三千円位だったらあまり文句も言えず楽しめたかもしれません。